脇役一筋、そのささやかなコネクション
思い入れが強くて名前を挙げるだけでは寂しいし、かといってメインにするほどの作品を持たない人達の中でも、どうしても無視できないのが、このトニー・ロー・ビアンコです。
トニー・ローは、70年代ポリスアクションの最高作「フレンチ・コネクション」で、髭のシャルニエ＝フェルナンド・レイと麻薬の取り引きをするグループのリーダー役を演じて注目されました。
この作品のプロデュサーだったフィリップ・ダントニ（「ブリット」もこの人だから、かなりの目利きと見た）は、トニー・ローを随分買っていたらしく、ダントニ・プロ製作のＴＶ映画「ＮＹ（ニューヨーク）犯罪地図／アンタッチャブル・コップ」では、市警の管轄外なのをいいことに、領事館で密輸をしている組織を執念で追いつめるはみだし刑事役に彼を起用しています。 期待に答えたトニー・ローは、デカ長ポール・ベンジャミンの再三の注意にも耳を貸さず、相棒の力を借りて、犯人を捕まえるのでした。 片腕を失ったもどかしさに苛立ちながらも、犯人につかみかかり、怒りをぶつける姿は迫力満点で、スケールの点では遠く及ばないものの、私にとってはフランス暗黒映画のバイブルとも言える「ラ・スクムーン」におけるミシェル・コンスタンタンを、一瞬、彷彿させるものでした。
いよいよ監督業にも乗り出したダントニが、これまた「フレンチ・コネクション」で抜群の味をみせたロイ・シャイダーを主演に起用したポリスアクション「重犯罪特捜班／ザ・セブンアップス」では、捕まれば七年以上は食らいこむ連中を、違法ギリギリのやり方で逮捕する特捜班のリーダー、ロイに情報を流しているチンピラ役で出演。 ここでのトニー・ローは金に困って、マフィア絡みの犯罪に手を染めてしまい、幼なじみだったロイにも見捨てられ、マフィアにも命を狙われる哀れな男を情け無く演じています。
この作品では、残忍な殺し屋を演じたリチャード・リンチが注目ですが、彼の持つ底知れぬ恐ろしさは、トニー・ローの気の弱さを強調させるに十分な迫力でした。 続いては、リチャード・ウィドマークの当たり役「刑事マディガン」のＴＶ版「マンハッタン事件」に出演。 ここでは、オツムの弱い弟と組んで、年寄り専門にセコイひったくりをくり返しているケチな強盗役を熱演していました。
ちょっとひねくれたチンピラ役を演らせたら抜群のトニー・ローですが、マディガンを死の淵に追い込むラストでは、マディガンの相棒の新米刑事（ロニー・コックス）に逆に撃ち殺されてしまいます。 今では、すっかり落ち着いた部長刑事役がぴったりのロニーですが、犯罪者を憎みきれないでいる心優しい新米刑事という設定には、細くて長い、時の流れが感じられました。ここには、マディガンの上司にマーレイ・ハミルトンも出演。
80年代以降、ベテランの域に入ったトニー・ローは、見たまんまのイタリアン・マフィア役で、ＴＶ映画を中心に活躍していますが、良く言えば、アクションものには欠かせない渋い脇役、悪く言えば、かわりばえのしないワンパターン役者の域を出ませんが、そこがまた彼の魅力でもあるわけですから、温かく見守るしかないのです。
そんなわけで、彼がオハコとも言えるマフィア役を演じた作品を簡単に紹介。
実話にもとづく犯罪もの「地獄のゲッタウェイ／１０００万ドル強奪作戦」は、八人のプロが大金を盗み出すも、小さなミスから足がつき、お決まりの女の裏切りに仲間割れと有りがちなストーリーながらも、結構楽しめるデキで、トニー・ローは言うまでもなく、資金を調達して眺めているだけのマフィアのボス役で、最後は儲けを独り占めするために、邪魔な八人を消そうとするのでした。 他にも、ロン・シルバーがニューヨーク市警の署長に扮して、幼なじみでマフィアの幹部にのし上がったトニー・ローと対決する「グッドマンポリス」、あまりに頑健そうなデミ・ムーアにスリル半減の「陪審員」にも、誰をも裏切らない役で。 ウェズリー・スナイプス、デニス・ホッパーの犯罪もの「ボイリング・ポイント」にも、やはり、予想通り・・・。
続いてはマフィア役でないトニー・ローを紹介。
フォーサイス原作で大ヒットした「ジャッカルの日」でお馴染みの、暗号名「ジャッカル」を持つ殺し屋の正体に迫る「ジャッカルを追え」では、堂々の主演で緊張感のある作品に仕上げています。 ここでのジャッカルはＫＧＢに雇われているという設定。
ジョン・セイルズ監督が、スラム街で必死に生きのびようとする人々の姿を淡々と描いた「希望の街」では、子供の罪をもみ消すために、犯罪に手を染めてしまい、全てを失う哀れな父親を演じて印象深かったのですが、作品のデキがあまりに地味に流れて退屈と言わざるを得なかったのが残念。 つくづく、報われないトニー・ローであった。
恥ずかしながら未見（ＴＶ映画が多くて＝言い訳）ばかりで突っ込みが甘くなり、尻つぼみになってしまったトニー・ロー・ビアンコの世界ですが、最後に彼が監督したＴＶ映画「殺意のシナリオ」が、ヒッチコックタッチのヒネリが楽しめる作品だったので紹介しておきます。
連続殺人が起きるアパートメントのドアマン役に英国俳優イアン・マクシェイン、おとり捜査官役にアン・アーチャー。 身体が不自由で口がきけない母親と暮しているマクシェインが無気味にハマっていて、ミステリアスなムードを醸しだしています。