かつてデ・パルマワールドを彩ったクセ者
まったくもってえげつなかった「ミッドナイトクロス」のブラックなエンディングを笑えなかった私としては、自らデ・パルマフリークを辞退させてもらいますが、初期のヒッチコックフォロワー的めくるめくデ・パルマ映像世界を彩った役者の一人が、ここで紹介するデニス・フランツです。
御法度とされている「夢落ち」を堂々とやってのけた「殺しのドレス」では、大御所マイケル・ケイン、オープニングの大胆シャワーシーンでエロス満開だったアンジー・ディッキンソン、ヒモつきナンシー・アレン、おたく少年にキース・ゴードン、そしていかにもワイロとか貰ってそうな、怪しい刑事役のデニスがいました。 真面目に犯人を追いかけているとは思えないのに、きっちりと仕事をこなしていたのにはびっくり。 内容的には「多重人格」ものがまだポピュラーになる前の作品なので、個人的には衝撃的でデ・パルマらしい長回しのしつこささえも許せるデキでした。
デニスは続く「ミッドナイトクロス」では、ナンシー・アレンと組んで浮気の現場写真をネタにケチなゆすりをしているカメラマン役で、いい味出していましたが、酔った勢いでアレンにせまって頭をかち割られていました。 主演はジョン・トラポルタ、不気味なキラー役でジョン・リスゴー。
デ・パルマのエロエロムードたっぷりのねちっこい映像が楽しめた「ボディダブル」では、うさん臭い三流ホラー監督役で出演も、出番が少なくてがっくりでしたが、この後ハリウッドの王道を歩むことになる巨匠デ・パルマにとっては、デニスのことなどかまっていられなかったのでしょう。 ここではメラニー・グリフィスが大胆にせまるトコも。
その後もチョイ役の多いデニスですが、シケた小悪党からタフな刑事まで幅広く、その持ち味を発揮しています。 こすっからさが全面に出ていたのが、続編にしては精一杯のヒネリでそこそこ楽しませてくれた「サイコ２」の、ベイツモテルの管理人役で、血塗られたモテルを連れ込みホテルにしてちゃっかり稼いでいたのが、病院から出てきた健全なベイツの怒りを買いクビになってしまいます。 腹いせにベイツのバイト先まで押しかけて悪さをしますが、姿なき殺人者に沼に沈められたようでした。
私にとって注目に値する役だった「ザ・パッケージ 暴かれた陰謀」では、タカ派の将校達が企む巨大な陰謀を阻もうとするジーン・ハックマンにたよりにされる、ベトナム時代の戦友の刑事役でさっそうと登場。 銃撃戦で弾をくらいながらも身体をはってハックマンを助けるその姿は、ルックスを超える男の中の男といえるかっこ良さでした。
「ちょっと誉めすぎだぞ」というツッコミが聞こえてきそうですが、「ダイハード２」では、ヒーヒーいいながらも結局はたった一人で悪党達をやっつけてしまうブルース・ウィリスと、いがみあってばかりの空港警察の署長役で、オーバーアクション同士で張り合っていました。 勿論、やることなすことダイハーダー、マクレーン警部補と比べられて上司にメタメタに言われても、立場も無くすごすご引き下がるのですが、それはそれでデニスらしい持ち味なので、私としては荒唐無稽なアクションものに埋没することのない彼の魅力を十分楽しみました。
こう見えても、ファミリーの一員といってもいいほどロバート・アルトマン監督に起用されているデニスですが、強度のアルトマン病（あまりのテンポののろさに睡魔が襲ってきて、気がつけばいつもエンドマークだけが浮き上がっているという症状で、時には団体で発病することもある）患者に認定されている私としては、当然語れない世界なので、せめてもＴＶ界での活躍だけは見逃さないようにと目を光らせていると、これがまた結構出番が多いのです。
まずはＴＶ映画から紹介すると、正統モルモン教徒を名乗りテロ行為を行う集団と戦う、ＦＢＩのリーダー役を演じた「ＦＢＩ復讐の挽歌」は、このシリーズの類型を出ずも真剣なデニスには魅力あり、ひょうきんな騎馬警官を演じた「カウボーイコップ／マンハッタン大追跡」は、デキの悪い愛馬と組んで大騒動になるアクションコメディものでしたが、笑いが爆発せずアクションもヌルくて見る価値なし。
ドラマの方に移りますが、私にとってデニス・フランツが大きくクローズアップされたのが、「ヒルストリートブルース」でみせた少し陰りのある無口でタフな刑事役でした。 役柄がはまったとはいえ彼の力量を見直すとともに、ますます気にかかる存在になったのです。 このシリーズにはゲストとしてハリー・キャラハンの相棒レニ・サントーニ、「アンタッチャブル」で殺しまくったビリー・ドラゴ等がいました。 続く「NYPDブル−」は、我が国では人気沸騰とはいきませんでしたが、おおげさなアクションを避け、刑事それぞれの人生を丁寧に描いた素晴らしいドラマでした。 デニスは離婚、アルコール依存症などの、暗い過去を引きずりながらも幾多の事件を解決するベテラン刑事役で出ています。 この作品でスターの仲間入りを果たしたのが、主役のデビッド・カルーソですが、女性検事と人生をやり直そうと、冷や汗かきながら食事に誘っている誠実な中年、デニス・フランツの前ではかすんで見えました。
最後に、ダスティン・ホフマンとの共演で、日本公開されたのに三日ともたずにロードショー落ちした「アメリカン・バッファロー」は、デビッド・マメット原作、脚本の舞台劇の映画化ということでかったるい予感がしていましたが、それを裏切ることなく見事に退屈なデキでした。 出演者が三人しかいない室内劇とくれば誰しもが予想できるはずで、私的にはさほど怒りもなく、９０分という短さに喜んだくらいのもんでした。 ただ脚本から主題が読み取れなかったのにはガックリ。 それとデニス・フランツにとっては、チャンスかと思っていたのがコケてしまったのが残念でした。 それでも悪い夢を見たと思ってすっかり忘れて、これからもデニスのクセ者ぶりに期待して行こうと、気持ちを切り替えています。