選りすぐられた脇役部隊の鬼軍曹はなぜかベビーフェイス！
パニックものにみられるオールキャストを売りにしてグランドホテル形式などとかっこつけても、所詮は落ちぶれたスターを人数合わせに寄せ集めただけの、人選においてすでにスリルのカケラもない作品を見るたびに思い出されるのが、あまりに凄すぎるメンバーが揃った巨匠ロバート・アルドリッチ監督の「特攻大作戦」です。
デビュー間もない無名時代のスターが多かったからこそ出来た神業だと言われればそれまでですが、「ナバロンの要塞」のグレゴリー・ペック、「大脱走」でのスティーブ・マックィーンのようないわゆる花形スターはいないけれど、ほとんどの人がクセ者役者として一花咲かせました。
重罪人の中から特別任務につく兵隊として選ばれたドナルド・サザーランド、テリー・サバラス、ジョン・カサベテス、チャールズ・ブロンソン、ジム・ブラウンと名前をあげるだけでもゾクゾクしてくるワル組に、まともな軍人側ではリー・マービン、アーネスト・ボーグナイン、ジョージ・ケネディ、ロバート・ライアン、そしてここでの主役リチャード・ジャッケルがいました。
ダーティなメンバーに入るにはあまりにもベビーフェイスで、とても終身刑クラスのワルには向いていなかったからでしょうが、将校というタイプでもないのでこの無法者達を鍛え上げる鬼軍曹というのは、はまり役だったでしょう。
やはり問題のある兵隊ばかりを集めてウィリアム・ホールデンが指揮をとる「コマンド戦略」では、「特攻大作戦」で悪党仲間に入れなかったウサを晴らすかのように、大活躍しています。 身軽さを生かして、誰も登れないと思われていた岩の壁を難無く登りつめ奇襲作戦を大成功させるのですが、最後は仲間を救うために命を落としてしまうのでした。 ジャッケルの仲間役にはぐっとスケールが落ちますが、ゴツイけど案外お人好しのクロード・エイキンス、とても気に入っているのに、セリフのある役が少なくてメインでは取り上げづらいルーク・アスキューが出ています。
私がこのジャッケルの存在を強烈に意識したのは、ポール・ニューマン監督・主演の、オレゴンを舞台に頑固一徹な一家を描いた、「わが緑の大地」の衝撃的なシーンを見てからでした。
伐採の仕事中に材木が崩れ、ジャッケルが川の中で足を挟まれ動けなくなり、水かさが増してくるのです。 義兄のニューマンが口移しで空気を吸わせるのも虚しく、力尽きるのですが、死の間際まで男同士キスすることをジョークにしている二人が哀れで、私にとっては忘れられないシーンになりました。 リベラルなニューマンが、スト破りをする保守的な男を熱演したので話題になった作品でした。
居留地を抜け出したアパッチと、彼等を追う騎兵隊の戦いを壮絶に描いた、ロバート・アルドリッチ監督の「ワイルドアパッチ」では、ジャッケル得意の経験豊かな軍曹役でいいところを見せましたが、若き将校ブルース・ディビソンの作戦が裏目に出て、熱演のバート・ランカスターと共に殺されてしまいます。
「ビリー・ザ・キッド／二十一才の生涯」では、ジェイムズ・コバーン扮するパット・ギャレットに借りを返すために仕方なくビリーを討つのを手伝うはめになる、誰よりビリーの怖さを知っている保安官役で出ていました。
あくどい役が似合わないジャッケルが小者のワル警官を演じた、「新・動く標的」ではアンディ・ロビンソンをかたづけるのが精一杯で、ボスのマレイ・ハミルトンが飼っていたドーベルマンに襲われて無残にも食われてしまいました。 マレイは、手下の小悪党一筋でいい味出しているポール・コスロを使って、しつこく調べまわる探偵ルー・ハーパー（ ポール・ニューマン ）を、「魔のプール」で水責めにしていました。
その他、きわめて小粒な動物パニック物、「グリズリー」では森の生物調査をしているに巨大熊に襲われる学者、常連のアルドリッチ監督作品「合衆国最後の日」では、バート・ランカスター達に襲われる核ミサイル基地で働く軍人役、「カリフォルニア・ドールズ」では腹黒プロモーター、バート・ヤングに八百長を指示されるレフリー役で出ていましたが、最後は観衆のブーイングに負けてドールズのフォール勝ちを宣言するのでした。
古くはドン・シーゲル監督の「燃える平原児」で、主演のエルビスと共にダンスを披露し、最近ではどうにも見るべきものの無いC級アクション、「キング・オブ・キックボクサー」の部長刑事役まで、地味ながらも幅広く活躍してきたジャッケルの名を新聞の訃報欄で見つけた何人かの人は、私以上に大きな悲しみにくれたと思います。 彼の冥福を祈るとともに、私の大好きな作品「組織」にも出ていることを伝えて幕を閉じることにしましょう。