いつだって苦虫つぶした顔をして部下をどなりちらしている、
やり手の部長なんか演らせたら最高
今は亡きデビッド・ジャンセンが、「逃亡者」に続いて私立探偵役に挑戦したＴＶドラマ「追跡者」での、ジャンセンをバックアップする刑事役がとてもきまっていたので、随分古くから目をつけていた役者さんの一人です。 この人ほど、中間管理職が板についている役者さんはいないでしょう。 いつも、苦虫つぶした顔をして、これっぽっちも人情味をみせない、やり手の部長刑事なんかを演らせたら最高なんです。
こんなアンソニー・ザービが、最も得意とする役でその名を印象づけたのが、すでに名人の域に達していたウォルター・マッソウに、クセ者ブルース・ダーンが組んで、難事件解決に挑むマルティン・ベックシリーズの、ハリウッド版「マシンガン・パニック」でした。
ここでのザービは、強引に昔の事件を掘り起こそうとするマッソウを怒鳴りつける部長役で、達者な連中と組んでもしっかり目立っていました。それも言葉じゃなく、あのニガリきった表情で。
スティーブン・キングの映画化の中でも数少ない名作「デッドゾーン」では、キラ星の如き役者陣の中、ザービはクリストファー・ウォーケンに内向的な息子の家庭教師をたのむ、田舎町の実力者の役を演じましたが、ウォーケンの忠告を信じなかったばかりに、多くの子供達を事故死させてしまった自分の愚かさと、ウォーケンの持つ予知能力という未知の力の前に、築き上げてきた価値観がもろくも崩れ去った思いとで、ただ呆然としている姿は誰もが忘れられないでしょう。
ザービの他にも役者が揃いましたが、強烈な狂人母子を演じたコリーン・デュハースト、ニコラス・キャンベルにはゾッとさせられました。 ニコラスは「遠すぎた橋」では、チョイ役ながら気の弱い将校役で、まだマトモだったのに、その後はマイケル・ビーン主演の「ランページ／裁かれた狂気」等、狂人専門になりつつあります。
野心家の大統領候補マーティン・シーンは、寡作ながらも言葉にし難い映像美が多くの人の心を捕らえて離さないテレンス・マリック監督のデビュー作「バッドランド」で、クールな若者の狂った青春を演じて世に出ました。 デビュー時の鮮烈さは消え去ったとはいえ、質より量の大顔息子チャーリーより数段上の実力者なのは、皆の認めるところでしょう。
他には、ウォーケンの元恋人役でブルック・アダムス（やはりマリック監督の「天国の日々」に出演）、保安官役にはトム・スケリット、ウォーケンの担当医に当然、ピンクパンサーしていないハーバート・ロムが脇を固めています。
いつも不機嫌なザービが人情味を見せたのが、ジョン・ウェインの西部劇ルースター・コクバーンシリーズの「オレゴン魂」で、ルースターに義理を通したために非情なボス、リチャード・ジョーダンに撃ち殺されるという儲け役なのですが、いかんせんキャサリーン・ヘップバーンの惚れ惚れするようなオンナ気に、ジョン・ウェインすらかすんでしまうくらいだから、アンソニー・ザービの良心など、遥か国境の彼方であったことは言うまでもないでしょう。
当然ながら下積み時代には悪役も演っていますが、若い頃から老け顔だったせいか、チンピラ小悪党系よりはランクは上だったようです。
古くは、ゆで卵を食べるたびに思い出す人も多いだろう「暴力脱獄」での、脱獄したポール・ニューマンを追いかける、犬どもの世話をしている囚人役があり、クールなルークにうまくまかれて、疲れ果てた犬を抱えて泣いていました。 同じくポール・ニューマンが「殺し屋判事」を演じた「ロイ・ビーン」では、恐いもの知らずのロイ・ビーンを見事にペテンにかける男で憎たらしさ見せました。
「猿の惑星」で味をしめたチャールトン・ヘストンのチンケなＳＦ「オメガマン」では、細菌戦争後に、夜しか行動できない吸血鬼化した集団のリーダー役で、目玉を白くしてヘストンに襲いかかっていましたが、この作品に収穫があるとしたら、ポール・コスロが良い人として登場することぐらいでしょう。
ついでながら、困り者ヘストンが懲りもせずにＳＦ攻勢をかける「ソイレント・グリーン」にも触れておきますが、ＴＶドラマ「ライフルマン」のチャック・コナーズが悪役で懐かしかったけれど、売り物にしたかったらしいエドワード・Ｇ・ロビンソンの起用は、オールドファンには失礼ながら、演技がおおげさすぎていけませんでした。
「続編に名作なし」の格言通りの結果だった「続・夜の大捜査線」でのザービは、殺された女の部屋のオーナーで、裏ではヤクに売春にと手広く稼いでいる悪党役でしたが、グレかけている息子のことで悩んでいて、まるっきり迫力の無い刑事ポアチエに追い詰められ撃たれてしまうのでした。殺人事件には無関係だったのに・・・。
まだまだありますが、マーロウならやっぱりこの人、ロバート・ミッチャムの「さらば愛しき女よ」では、悪女シャーロット・ランプリングとつるんでいる暗黒街の大物役で、渋いところをみせました。
ニック・ノルティが、タフガイとしての魅力を爆発させた「ドッグソルジャー」では、悪徳麻薬捜査官役で登場。 山中での銃撃戦のすえ、身体をはって友達を守るノルティを壮絶な死に追いやりますが、ザービもまた麻薬を手にした時、その命を狙われるという暗示で終わるのでした。 ここでは手下をいいように扱って貫禄を示しましたが、名脇役アンソニー・ザービをあまりに軽視しているとファンを怒らせたのが「刑事コロンボ」の新シリーズ「汚れた超能力」にマジシャン役でゲスト出演した時で、ピーター・フォークと絡む犯人役で丁丁発止の演技合戦を期待していたら、哀れにもインチキ超能力者にギロチンで首を落とされてしまうのでした。 ショック！
これだけ論じても、まだアンソニー・ザービがいかなる人物か思い当たらない人のために、切り札を出しましょう。 西部劇ドラマ「ヤングライダース」の汚れ無き若者達に、ドサクサでまぎれ込み、ＮＨＫの顔になろうとしているオジサンこそ我等のアンソニー・ザービその人なのです。
その他、見てるものだけ簡単に紹介します。
脱獄ものの大作となる「パピヨン」では、ある病に冒された人達のリーダー役、TV映画「暴動刑務所アッティカ」では、ジャーナリスト役でロン毛を披露、ジャッジ・ラインホールド主演の警官コメディ「オフ・ビート」では、警官一家の堅物オヤジ役、巻き込まれ型B級アクション「Ｐ．Ｉ プライベート・インベスティゲーション」では、主人公の父親役などあり。 なお、若き日のマイケル・ダグラス主演の「サンフランシスコ捜査線」にもゲスト出演があり、その時のナレイションでザービと聞こえたので、一般的にはザーブのようですが、そちらを採用しました。
誰もが知っているメジャーなところでは、「007/消されたライセンス」、「トゥルー・クライム」、そして「マトリックス」シリーズがあります。
「マトリックス」出演後に惜しくも他界。