英国の俳優さんにとっては役を選ばないことが誇りであるそうです。 たしかにローレンス・オリビエでさえ、「マラソンマン」のサディスティックなナチの残党役から、「シャーロック・ホームズの素敵な挑戦」のホームズの母親と貫通するモリアティまで、結構ダーティな役をやっていますし、我等のマイケル・ケインに至っては、「殺しのドレス」の女装する性倒錯者から「デストラップ／死の罠」のホモの作家、果ては内容皆無の「ジョーズ４復讐編」まで、ともかく出まくっています。 オスカーまで取った人がそこまでやるか、という周囲の心配をよそに。
オールスターキャストで描かれた「遠すぎた橋」で、この英国の誇り高き男マイケル・ケインの上官役として、ユーモアたっぷりに戦意高揚の大演説をうつのが、ここに登場のエドワード・フォックスです。 ここでのフォックスが、出番の少ないわりに印象深かったのは、彼がお偉いさん役なのに全然マッチョじゃなく、貫禄満点の軍人像とかけ離れていたからだと思います。
さっそく脱線しますが、この「遠すぎた橋」は、各国の主役級が勢揃いした見せ場たっぷりの作品でしたので簡単に紹介。
ジェイムズ・カーン、エリオット・グールド系陽気でタフな米軍、フォックス、ケイン、それに誰も名人と呼ばなかった頃のアンソニー・ホプキンス系知的でユーモラスな英国軍、そして忘れられないマキシミリアン・シェル系ストイック無表情な独軍という対比が見事に描かれている傑作でした。 他にも、ロバート・レッドフォード、ショーン・コネリー、ジーン・ハックマン、ダーク・ボガード、ローレンス・オリビエ等々半端じゃない！ ただし、公開時には全体に散漫すぎるという批判もあったようでしたが・・・。
フォックスは言うまでもなくフレッド・ジンネマン監督の傑作「ジャッカルの日」でスナイパー役を演じ、スターの仲間入りを果たしました。
巧みな話術と変装で上流の婦人をたらし込んだり、ホモの紳士にその道の愛好家と思わせて利用したりして捜査当局の目を逃れ続け、最後は片足の傷痍軍人になりすましドゴール暗殺を企てるのですが、時に非情に、時にひょうひょうと危機をすり抜けていくジャッカルは、まさにフォックスならではの魅力に溢れるものでした。
なにしろ、ブルース・ウィリス版「ジャッカル」のくだらなさを見れば、フォックスの素晴らしさは一目瞭然！
大スターになったフォックスですが、さすが英国俳優、その後は脇にまわって持ち前の軽い演技で楽しませてくれてますので紹介しましょう。
アリステア・マクリーン原作らしい、どんでん返し連発の戦争映画「ナバロンの要塞」の続編にあたる「ナバロンの嵐」では、爆破のプロ、ミラー軍曹に扮したフォックスが、いかにも彼ならではのとぼけた味わいをみせたこともあり、笑える痛快作として成功に導いたと思います。旧友マロニー少佐役のロバート・ショウとの掛け合いも最高で、私にとっては人間模様を重厚に描いた前作よりも楽しめる作品でした。
同年製作のレイモンド・チャンドラー原作、マイケル・ウィナー監督による再映画化（ ＴＶ映画 ）「大いなる眠り」は、舞台を英国に置きかえているせいもあり、誇り高き英国俳優陣がズラリと並んだ傑作でしたが、フォックスはマーロウ（ロバート・ミッチャム）に探りを入れられているうちに、ホモの若者に愛人を殺した犯人と間違えられて、あっさり撃ち殺されてしまう、ケチなゆすり屋ジョー・ブロディ役で出ていました。 やはり、同じようにあっさり殺されるのが、マーロウに情報を売る小心者のチンピラ役のコリン・ブレイクリーで、怖い怖いリチャード・ブーンに毒を盛られてしまうのでした。
他にも、マーロウを雇う哀れな大富豪（ ジェイムズ・スチュワート ）の執事役にハリー・アンドリュース、影の大物エディ・マース役にはオリバー・リードが出ています。
同じくマイケル・ウィナー監督の初期作品で、いかにも英国ならではの皮肉とユーモアに満ちていた「ジョーカー野郎」には、世間を騒がせて有名になりたいという理由だけで王冠を盗む兄弟役でオリバー・リード、マイケル・クロフォード、そんな二人に振り回される刑事にハリー・アンドリュース、そして、我等のフォックスもほんのチョイ役ながら、二人の遊びに巻き込まれてとんだ目にあう軍人役として顔を出していました。
英国俳優総出演となった「空軍大戦略」にもロバート・ショウと共に空軍パイロット役で出ていますが、当然ながら、ここにはハリー・アンドリュース、マイケル・ケイン、イアン・マクシェイン、そして、ローレンス・オリビエの名も見られます。
傭兵部隊の活躍を描いた「ワイルド・ギース」の続編というには、内容的にも、役者の質においてもかなり趣の違う「ワイルド・ギースⅡ」では、テレビ局に雇われて、牢獄にいるナチの残党（ 老いて貫禄のローレンス・オリビエ ）を脱獄させようとするスコット・グレン（ 妻子を紛争で失った孤独で冷徹な戦士 ）に協力する射撃の名手として出演しています。 いかにも彼らしいギリギリの場面でもジョーク連発のとぼけたキャラながら、常に危険と隣り合わせのプロの兵士として、抜け目なくグレンをバックアップしていました。 スリムなわりにタフな役どころが多いフォックスは、めったに弱みをみせないのですが、ここでは、長い傭兵暮らしで患ったマラリアの後遺症で、のたうちまわる姿がありました。
その他、やはり続編的作品となる「クワイ河からの帰還／戦場にかける橋２」での、日本軍の捕虜となり決死の脱走を企てる英国士官（ ドクターでもある ）役、アンジェラ・ランズベリーがマープルに扮したクリスティーもの「クリスタル殺人事件」のマープルの甥っ子のスコットランド・ヤード警視役等あり。
まだまだ出演作はありますが、私の実力不足で残念ながら作品紹介はここまでとなります。
押し出しが強くないので目立たないけれど、その分、軽い味わいの出せるエドワード・フォックスには、いつまでも英国俳優魂を失うことなく、脇にまわって楽しませて欲しいと思いますし、「ジャッカル」のようなバリバリ主演にも期待して幕にします。