筋の通ったプロフェッショナルを演じたら誰より光り輝く男だ
親しみをこめてアメリカ映画界の琴稲妻（すでに引退）と呼んでしまっている、見事に禿げ上がった男と言えば、誰もが納得のエド・ローターもコツコツと悪役をこなしてきた一人です。
今は亡きシンガー・ソングライター、ジム・クロウチの名曲が流れるオープニングがこれはイケルと確信させる「ラスト・アメリカン・ヒーロー」では、若きカーレーサー、ジェフ・ブリッジスのやり手のスポンサー役で、お互い意地を張り通し反発しあいながらも、その腕だけは認めているプロの心を持った男を、印象深く演じています。
彼が最も高い評価を得た、ロバート・アルドリッチ監督の「ロンゲスト・ヤード」の鬼看守役は、絶好調だった頃のバート・レイノルズを食うほどでした。
看守組と囚人組のフットボールの試合で、幾多の妨害を乗り越えて囚人組がドラマチックに勝利するという話ですが、ここでも彼は、、バートと徹底的に張り合いながらも最後はその力を認め、定石通り登場の悪所長エディ・アルバートの「撃ち殺せ」の命令も無視して、潔く手を引くのでした。 このようにエド・ローターは悪党ヅラなのに心底までは腐ってない、実においしい役どころをこなせる男なのです。
マイケル・マン監督のＴＶ映画「ジェリコ・マイル」では、囚人ランナー、ピーター・ストラウスをコーチするやはり筋の通ったプロフェッショナルの役。 アリステア・マクリーン原作の、ミステリー仕立てのウエスタン「軍用列車」では、入り乱れる乗客の中でも主役チャールズ・ブロンソンが唯一信頼する軍人役で活躍していますが、作品の出来としては謎解きに妙味無く、死者に鞭打つようで申し訳ないけれどブロンソン映画の永遠の命題である「ジル・アイアランドはなぜここにいるの？」という深い疑問だけが浮かび上がってくるのでした。
まだまだ頑張るブロンソンの「デスウィッシュ」シリーズの「スーパー・マグナム」では、法律破りのブロンソンをバックアップする骨っぽい刑事、ひょうきんな面も見せ始めたアーノルド・シュワルツネッガーの肝心のアクション不発で辛かった「ゴリラ」でも、主役以上にインパクトの強い刑事役をこなしエド・ローターここにありって感じで、ファンにとっては嬉しいかぎりでした。
その他、数えきれない作品に出ている悪党エドとしては、バート・ランカスター監督・主演のミステリー「真夜中の男」では、ストッキングをかぶっても私ならきっちりモンタージュ作りが出来たチンピラ役、ジョン・フランケンハイマー監督の手腕により、続編特有の過剰な物量投入にたよった入れ込み過ぎも無く前作以上の出来とも言える、「フレンチ・コネクション２」でも光り輝いていました
巨匠ヒッチコックのほのぼのタッチのミステリー「ファミリー・プロット」では、インチキ霊媒師と組んでダイヤを狙っているブルース・ダーンを付け狙っていましたが、なにしろキャリア豊富なブルースに上手くかわされて車ごと谷底へ。
まだまだ未見もありますが、善玉エドの方はもっと出演作が多くて簡単に紹介すると、ほんとに写っているだけの警官だった「殺人者にラブソングを」、哀しきポリス・ストーリー「センチュリアン」でも警官の一人。「ディア・ハンター」での狂気の演技が忘れられない、ジョン・サベージが妻を殺したテロリストに復讐する「ザ・アマチュア」では、サベージを訓練するＣＩＡ工作員の指揮官役でしたが、この作品は案外複雑な展開をみせる拾い物のサスペンスで、エドはサベージ殺しの命令を受けるのでした。 これもほんのチョイ役ですが、タランティーノ脚本が冴えた傑作「トゥルー・ロマンス」にも顔を出していたはず。
ポリス役が多いエドですが、近作ではルー・ダイアモンド・フィリップス主演の「必殺処刑コップ」で、法では裁けない悪人を追い詰め抹殺するＳＩＳという特別捜査班の長官役で貫禄をみせたかと思うと、昨今稀なほどの、オールスターキャストで描かれるリー・タマホリ監督の「狼たちの街」では、一言セリフを口にしたとたんに撃ち殺される警事役でびっくりでしたが、そんな役も気楽にこなすのも我等のエド・ローターの魅力かもしれません。
さて話しは少しズレますが、ここで個人的にも一押しの、この歴史的キャストでおりなす傑作アクション「狼たちの街」に触れたいと思います。 主役は脇にもまわれるはずのタフガイ、ニック・ノルティ、彼と関係していた女で、目も眩むようなグラマラスボディを披露してくれるジェニファー・コネリー、かつてはジェニファーが大関なら、小結ぐらいは務められたはずのメラニー・グリフィスがノルティの妻、老いた科学者役に現在最も凄いジョン・マルコビッチ、最近メキメキ悪党としての実力をつけつつあるトリート・ウィリアムス、ケチなゲイ役でアンドリュー・マッカーシー好演、腹のすわった警察署長にブルース・ダーン、ニック・ノルティの刑事仲間にチャズ・パルミンテリ（最も儲け役でルックスを超えてかっこいい）、クリス・ペン、マイケル・マドセンと、ズラリと揃って素晴らしい作品に仕上げています。 もちろん「ザ・ロック」とか「コン・エアー」的なエンターテイメントな見せ場は皆無ですが。
すっかり自分の世界に入ってしまいましたが、最後に誰もが知っているＴＶシリーズ「Ｘ−ファイル」に、見てはならないものを見てしまったために、頭がおかしくなって自殺してしまう宇宙飛行士役で出ていたこと伝えて、エド・ローターの世界を終りにします。
追加でもう少し紹介。
キング原作もの「クジョー」では、クジョーの飼い主役で野卑なところをみせていました。 アンソニー・ホプキンス主演のサイコサスペンス「マジック」にもその名あり、リチャード・アッテンボロー監督作品ですが、内容的にはかなり重苦しいデキ。 シリアスな青春もの「青春の輝き」では、ユダヤ人というだけで差別される学生（ブレンダン・フレーダー）の父親役で。 B級丸出しアクション「リベンジ・ファイター」にも出演。 ここでは、そこそこ出番ありでしたが、単なる裏切り者でエド・ローターらしさは味わえず、残念！