その笑顔を見たらすべてが許されてしまう、
とても憎む気になれない人だ！
ジャニス・ジョップリンを彷彿させる愛嬌があって、あの笑顔を見せられた日には、誰だって憎めなくなるそんな可愛いらしさを持った人です。
実在した凄腕のカーレーサー、ジュニア・ジョンソンのサクセスストーリー、「ラスト・アメリカン・ヒーロー」では、若くて純粋なジュニア役のジェフ・ブリッジスを振り回すしたたかなグルーピー役でしたが、何しろ何をやってもあくどさを感じさせないタイプなので、「一夜の遊び」だったなんて信じられないでいるブリッジスの気持ちが良くわかりました。 ここには、今でこそ無理があるとしか思えないハードな役が多いゲーリー・ビジーが、ブリッジスに輪をかけたような純朴な弟役で出ています。 それと、忘れてならない脇役一筋名優エド・ローターも、やり手のスポンサー役で出ていましたね。
ヴァレリーで見逃せないのが、ダスティン・ホフマンが壮絶な破滅型タイプの芸人（ スタンダップコメディと言うらしく、アカデミー御用達の二人トム・ハンクスとサリー・フィールドが「パンチライン」で悲惨にならない程度にこの世界のシビアさを描いています ）を演じた「レニー・ブルース」でのレニーの奥さん役でしょう。 若くしてその人生を閉じたレニーの波乱の生涯を、人気ストリッパーだった妻のヴァレリーやプロモーターなどの知人達にインタビューしながらフラッシュバックさせてストーリーを進める作品でした。
このスタイルで思い出すのが、ウディ・アレンの数少ない笑える傑作「泥棒野郎」ですが、ここでのアレンは「００７カジノロワイヤル」でみせたような、バカバカしいギャグとテンポのあるスラップスティックな笑いを連発させながら、とぼけた男の人生をいかにもアレンらしい自虐的な面をまじえて描いています。 後年の妙に芸術づいたアレン作品には、何の興味もない私ですが、中途半端に大監督ウディ・アレン様の批評なんかしようものならボコボコにされそうなので、このへんにして「レニー・ブルース」に戻ります。
ホフマンは予想通り入れ込んでいて、個人的にはこういった息苦しくなるようなシリアスものは苦手なので辛かったのですが、ヴァレリーの麻薬中毒で、ボロボロになりながらも時おり見せる可愛いらしい笑顔は、やはり捨て難いものでした。猥褻容疑で何度も掴まり、落ちぶれて貧困の中で死んでいったレニーを、最後まで愛し続けた（「脱出」のローレン・バコール風に言えば）とても憎む気になれない人なんです。
その後は、ジョナサン・カプラン監督がイタリア製西部劇の「ミスター・ノーボディ」で、ヘンリー・フォンダと共演したテレンス・ヒルを起用したアクションコメディ「Ｍｒ．ビリオン」では、大会社の社長だった叔父さんの財産を相続することになったヒルを、金で雇われて得意のお色気責めで誘惑する悪女役で出ていましたが、お人好しのヴァレリーですから、当然のように最後はヒルと恋に落ちて、めでたしめでたし。
ここでは社長の座を狙うジャッキー（ミネソタファッツ）グリーソンも、あの手この手でヒルの妨害を図っていました。 誘拐犯の一人に、同じカプラン監督の「告発の行方」でレイプされるジョディ・フォスターをはやしたてる、かっこ悪いレオ・ロッシが出ていましたが、彼はジャン・マイケル・ビンセント主演のＢ級アクション「地獄のヒットターゲット」で、子供を誘拐されたビンセントに手を貸す、骨っぽいギャング役で名誉挽回しています。
翌年には、洋の東西を問わず自らの幼稚さをノスタルジーにすりかえて喜んでいる人達がいる限り、永遠に作られるだろうタイプの代表作「スーパーマン」に、世紀の大悪党ジーン・ハックマンの手下テシュマーカー役で出ており、コスプレを披露していましたが、やはり心優しいヴァレリーですからママを救うために、ハックマンを裏切りスーパーマン＝クリストファー・リーブを助けるのでした。 惑星クリプトンでの父親役にマーロン・ブランドまで起用して、延々とスーパーマンの生い立ちを描くシーンのバカバカしさに耐え切れない人にとっては、お金の無駄使いとしか思えない作品ですが、丸坊主のハックマンと、見事なボケッぷりをみせる手下のネッド・ビーティの、掛け合いを唯一の救いと思って、笑ってしまいましょう。
いまひとつ作品にめぐまれないヴァレリーが久々に持ち味を発揮したのが、トニー・リチャードソン監督の「ボーダー」での、ジャック・ニコルソンの奥さん役でした。 メキシコ国境の警備隊員でアイデンティティを求め悩むニコルソンを尻目に、お人好しだけどノーテンキで、やれウォーターベッドだ自家用プールだと次から次の買い物狂い、まるで毎日がパーティのような女（誰もが思い出すだろう「ファイブ・イージー・ピーセス」の何もかも持っているのに、心落ち着かないニコルソンが、自分自身をとことん堕落させたくてつきあう、教養のない女を見事に演じたカレン・ブラックのことを）で、最後まで夫ニコルソンの心の中にはとっくに彼女の存在意味など無くなっていたのに気づかない、無神経だけどそれでいて憐れな女を演じています。
結局ニコルソンは、子供を盗まれた若いメキシコ女に、命がけで子供を取り返してやるという正義を行なうことで、アイデンティティを取り戻そうとするのですが、悪役陣の上司ウォーレン・オーツ、それに加担している同僚のハーベイ・カイテルがいまいち冴えなかったぶん、ヴァレリーのニコルソンの気持ちを逆撫でするような屈託のない笑顔は、やはり印象に残るものでした。
絶頂期のジョージ・ロイ・ヒル監督が難解なＳＦに挑戦した「スローターハウス５」で、ただ素っ裸になって寝転んでいるマグロ状態のヴァレリー・ペリンを見せられて、とても芸術点などあげられない私でしたが、下心ミエミエのデートコースとして入場する正しい人達だけでなく、解らないものを有り難がって褒め称えるええかっこしいの存在によっても、この偉大な産業が成り立っているということが再認識できたという点でのポイントは、かなりのものでした。
ここまで書いても、ヴァレリー・ペリンにまったく興味を抱けない人には意味を持たないでしょうが、最後に可愛げとは無縁だったヴァレリーの出演作を幾つか紹介しておきましょう。
違法な「サブリミナル効果」を使って選挙運動を企むＴＶマン達の陰謀を描いた「エージェンシー」では、ＣＭディレクター、リー・メジャースの恋人の精神科医役。 ダーモット・マローニー主演の「ブライト・エンジェル 旅立ちの予感」では、マローニーのママで、アル中のサム・シェパードを見捨てて家を出る役でした。 ここでは、彼女のささえになる航空隊員役ウィル・パットンの淡々と静かにそこにいる姿が印象深かったですね。 余談ですが、この国にはまったくファンがいないであろうバート・ヤングの、怖いオッサンぶりもポイントでした。 それではこのへんで。
追加報告
ジェイムズ・エルロイ原作の、ロイド・ホプキンス刑事もの「ザ・コップ」を撮ったジェイムズ・Ｂ・ハリス監督の、ムード満点の犯罪映画「ボイリング・ポイント」では、刑務所帰りのデニス・ホッパーが惚れ込んでいる女房役で。 派手なアクションこそ無いが、全体に哀愁が漂っている異色作で、やり直すことを誓ったホッパーがパトカーの中で、待ち合わせ場所に向かうヴァレリーを見送るシーンで終わります。 ホッパーを追う刑事役でまだタイトな頃のウェズリー・スナイプス。 ホッパーの相棒にヴィゴ・モーテンセン。 ポール・ニューマンが州知事役をした「ブレイズ」では、妻子あるニューマンと恋に落ちるストリッパー役をした、ロリータ・ダビドビッチが、ここでもスナイプス（やはり妻子がいる）と寝る商売女役で、強烈なオーラを発している。
主役の探偵をマイケル・ルーカーが演じたジェイムズ・エルロイ原作の、「ブラウンズレクイエム」で彼女を発見。 ここにはどうにも掴み所のない、スティーブン・ソダバーグ監督作品「英国から来た男」にも顔を出していたバリー・ニューマンも。 そして、ルーカーの敵役の刑事に故ブライオン・ジェイムズ。 作品の出来としては数ある探偵ものの類型を出ずも、お子ちゃま向けのジェットコースター・ムービーには無い淡々とした味わいが。